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台湾の避暑地「阿里山」へ、世界三大登山鉄道の旅#3

「サムライ、サムライ……サムライ列車だよ」

 男性は僕が英語を聞き取れなかったとみて、ゆっくりと言葉を繰り返してくれた。が、それでも何のことかわからない。観光列車の一種だろうか——。

 世界一の親日国と言っても過言ではない台湾のことだ。列車には、日本のお城や桜吹雪が描かれ、甲冑を身につけた添乗員がパフォーマンスしてくれる情景が目にうかぶ。しかし、なぜ阿里山で?

「サムライ列車、サムライ列車……、えっと……4時30分、チケットは阿里山駅で買えるよ」

 朝4時30分、ずいぶん早い時間ではないか。いやまてよ。

「4時30分、阿里山駅……あぁ! 日の出列車!」

 サムライ……サムライ……sunライ、sunrise(サンライズ)。

 ようやく理解できた。

 sunriseがサムライに聞こえていたのだ!

 やっと伝わったと安心する男性と、笑いころげる僕と妻。台湾での空耳アワー事件である。

萬國別館

  • 住所:605嘉義縣阿里山鄉中正村45號
  • 電話:+886 5 267 9777
  • 公式WEBサイト:http://wanguo.emmm.tw/?ptype=info
  • 言語:日本語× 英語は通じます
▲阿里山の、確か郵便局だ
▲土産物にまじってたくさんの防寒着が売られていた。なにせ標高は2,000mを超えており、冷えるひえる

九九九餐廳での夕食

 阿里山駅で日の出列車の切符を購入し、レストラン街を散策した。店を見てまわると、観光者向けの中級レストランと、屋台とレストランの中間のような、庶民的な食堂があった。僕たちは台湾のローカルフードを味わいたくて、迷わず庶民的な食堂へと向かった。

 九九九餐廳(999レストラン)。入店すると——といってもドアはない——店員からメニューを渡される。写真はなく、漢字がずらりと並んでいるだけのメニューだ。しかし、そこは同じ漢字を使う日本人である。漢字を見ながら料理を想像して注文した。さて、思い通りのものが食べられるだろうか。

  • 麻婆豆腐(マーボードウフ。これはわかる):120元
  • 炒牛麵(チャオミューメン):80元
  • ちゃんぽん麺(料理名を記録するのを忘れた):80元
  • TAIWAN BEER 600ml(タイワン・ビール):80元
  • しめて360元(約1,300円)
▲炒牛麵は牛肉の焼きそばだった

 僕が注文したのは「炒牛麵」だ。炒めた牛肉をのせたラーメンを想像していたが、炒められていたのは麺のほうだった。つまり焼きそばだ。想像とは違った料理だが、うまい!

 中華料理は辛くて油っこいイメージがある。しかし、中華の中でも台湾料理は薄味で、日本食に近いものを感じた。麻婆豆腐にはグリーンピースと人参が入っており、辛さの中にも優しい甘みがある。TAIWAN BEERはキリンやアサヒの辛口ビールとはちがい、フルーツ系のクラフトビールのようだった。2人前で1,300円。満腹、幸せである。

▲意外とマイルドな味わいの麻婆豆腐

台湾でもっとも標高が高いセブン-イレブン

 阿里山駅の近くには24時間営業のセブン-イレブンがある。

 台湾に来てまでセブン-イレブンとはいささか興がそがれるものの、コンビニやファーストフードチェーンはツーリストの心強い味方に違いない。それに、「セブン-イレブン神木店」は標高2,200mに位置する、台湾のセブン-イレブンでもっとも標高が高い店舗なのだ。店内のスナック菓子の袋が気圧の関係でパンパンに膨らんでいたのが面白かった。ちなみに、日本で最高標高のコンビニは、長野県の「ローソン白樺湖蓼科店」の1,420mである。

▲見覚えのあるパッケージが並ぶ店内。ご覧のとおり膨れ上がっている
▲コンビニおでんもあった! 右のは日本ではあまり見かけない、少し辛そうなおでん

祝山からのご来光

 翌朝、午前4時にホテルを出発し、息をきらせながら階段地獄を登りきり、阿里山駅にて「日の出列車」の到着を待った。吐息が白い。8月にダウンジャケットを羽織ったのは、これが初めてのことである。

 阿里山駅から列車で30分。祝山(ヂューシャン)からのご来光は、阿里山観光の名物だ。しかし、当日はあいにくの雨で霧が濃かった。おそらくご来光は拝めないだろうが、せっかく切符を買ったのだ。祝山駅まで出かけてみた。

 祝山駅のすぐ目の前には「祝山展望台」がある。多くの人はここからご来光を望むが、僕は前日にホテルで穴場を詳しく教わっていた。

「祝山駅から少し歩くけど、小笠原展望台まで行ったほうがいいよ。そこには360度の展望が広がっているんだ」

「もし何か分からないことがあったら、いつでも聞いてね」

 本当に親切に教えてくれて、感謝している。

 小笠原展望台では、数名の観光客が傘をさしながら日の出を待っていた。日本語もちらほらと聞こえてくる。「すみません、東の方角はどちらか分かりますか」と女性にたずねられ、こちらですよと説明したその視界の先には、分厚いベールに覆われたように雨と霧で真っ白な空が広がっていた。日の出の予定時刻は午前5時40分。時間を過ぎて辺りはすでに明るくなっていたが、残念ながら太陽の姿は見えない。

「これは見えないなぁ……」

 どこからともなく日本語が聞こえてきた。先ほど方角を訪ねてきた女性も、とぼとぼと駅に向かって歩きだした。心残りだったが、天候だけはどうにもならないのだ。

▲祝山駅前では早朝から露店が営業している
▲朝食は阿里山駅に戻ってから屋台で頂いた
▲焼きそばと野菜の炒め物の他に、お粥も食べた

 ホテルで荷物を整理してカウンターに向かうと、昨日の小柄なおばあさんが座っていた。

「チェックアウトします」

 「あぁ……チェックアウト……チェックアウト」そう繰り返しながら、おばあさんは何とも名残惜しそうな表情をみせた。

「バイバイ、バイバイ」おばあさんは寂しさと笑顔が混じった顔で手をふってくれた。

「また来ます! 谢谢!」

 無事に阿里山にたどり着けたのも、いろいろサポートしてくれたタクシードライバー、駅の係員、ツーリストセンターのスタッフ、そしてワンコウ・ホテルのスタッフのおかげだ。駅やバス停で迷っていると、地元の人が声をかけてくれた。その人たちの親切のおかげで台湾旅行を楽しめたのだ。

 もし日本で困っている外国人がいたら、今度は僕が助けてあげよう。そう思わせてくれるほど、台湾の人々は愛に溢れている。

 阿里山を離れるのが名残惜しかったが、気持ちを切り替えて、嘉義駅行きのバス停に向かって歩き出した。台湾は近い。台湾人の温かさが恋しくなったら、また訪れればいいのだから。