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台湾の避暑地「阿里山」へ、世界三大登山鉄道の旅#2

 阿里山森林鐡路は、本来は嘉義駅から阿里山駅まで運行されている。しかし現在(2019年)は自然災害の影響で、途中の十字路駅、もしくはさらに手前の奮起湖駅までしか運行されていないらしい。

 購入した切符は十字路駅行きである。僕はてっきり十字路駅まで行けると思っていたので、奮起湖駅からの交通がわからない。まぁ、慌てても仕方がないので、散策しながら昼食をとることにした。

登山食堂のお弁当 

▲奮起湖駅前の、商店街にて

 駅からすぐの商店街で「登山食堂」という看板が目に入った。その屋台のような店舗の軒先には、椅子とテーブルが並んでおり、数人の観光客がお弁当をおいしそうに頬張っていた。台湾でも弁当は人気で、コンビニや駅などさまざまな場所で売られている。弁当は日本統治時代に日本から持ち込まれた文化だ。今ではすっかり台湾に浸透している。

「登山食堂」の窓口で「軟焼肉(メンシャオロー)弁当:130元(約470円)」を注文すると、温かいお弁当がでてきた。

「ここで食べますか? そこの、空いているテーブルを使うといいよ」

 軟焼肉弁当は日本の生姜焼き弁当に近かった。豚肉をタレにからめて焼いているようで、肉は生姜焼きよりも分厚く、しかし生姜は入っていない。生姜焼きの生姜抜き、である。醤油ベースの甘辛いタレはきっと日本人にも好まれるだろう。

 おかずの下には白ご飯がいっぱいに詰められている。付け合わせには、ごま油の香りがただよう青梗菜(ちんげんさい)や、きゅうり、人参が添えられている。

 びっくりしたのは、ご飯を口の中にかきこみ、梅干しをつまんだときである。梅干しが、まるでスイーツのように甘いのだ。後日、台北の九份でお茶を楽しんときにも、お茶請けに甘い梅干しがあって納得した。なるほど、これは食後のデザートだったのだ。

 弁当を頂いてからふたたび駅に向かう。ここから先、阿里山にはバスで行けるようだが、チケットの購入方法が分からなかった。

「すみません、阿里山へ行きたいのですが、バスのチケットはここで買えますか?」

 窓口で問い合わせてみる。

「阿里山へ行きたいんだね? 僕が案内するよ!」

 台湾の人たちは本当に親切だ。20代前半とおぼしき快活な若い駅員が、満面の笑みで案内してくれた。

「バスは悠遊卡(ユウユウカード)で乗れますか?」

「もちろん!」

 悠遊卡とは、台湾の交通系ICカードのこと。日本のそれと同じように、交通機関だけではなく買い物にも使える。空港や駅の券売機、コンビニなどで購入・チャージができる便利なものだ。台湾を訪れたら手に入れておきたい。

▲奮起湖駅で乗り換える乗客たち
▲かつて森林鉄道を率いていたSL

阿里山・国家森林遊楽区

▲阿里山・国家森林遊楽区のバスターミナル

 奮起湖からバスに揺られること約1時間。ついに到着した。エントランスゲートで阿里山・国家森林遊楽区の入場券を購入し、まずは旅遊服務中心(ツーリストサービスセンター)に向かう。

 本日の宿は、義父が代理で萬國別館(ワンコウ・ホテル)を予約してくれていた。しかし予約情報のダウンロードをうっかり忘れ、義父からも詳細を聞きそびれ、台湾でのWi-FiやSIMカードも契約していなかった。ホテルの名前は分かるが、住所も、チェクイン時間も、電話番号さえも分からない。それでよく阿里山までたどりつけたものである。不安をかかえながら、ツーリストサービスセンターでホテルの場所を聞いてみた。

「您好(ニーハオ)。ええっと、萬國別館へはどう行けばいいですか?」

 もし「そんなホテルはここにはないよ」なんて返されたら、多分僕は膝から崩れ、再起不能に陥るだろう。が、スタッフが地図を出して説明してくれた。よかった、場所は間違っていない。

「ここを出てすぐ左に曲がって、階段を降りたら右に曲がってくださいね」

「わかりました、あっちですね?」

 スタッフの説明を聞き終えた僕が明後日の方向を指さすと、スタッフは大きな声と身ぶり手ぶりでもう一度し説明してくれた。

「違うちがう、左だよ左! 階段を降りたら右ね!」

「OK、こっちですね。谢谢!(シェーシェ)」

 ごめんねスタッフさん。説明は丁寧にしてくれたのだが、問題は僕の英語力である。

萬國別館

 ツーリストサービスセンターから5分もかからず、無事に萬國別館(ワンコウ・ホテル)に到着した。時刻は14時30分を過ぎているし、たぶんチェックインできるだろう。ホテルのカウンターに向かうと、男性スタッフが対応してくれた。

「予約していた川口です」

「OK、パスポートをみせてください……宿泊代から前金を差し引いて、残り1,200元いただきます」

「これが部屋の鍵です。荷物をおいて一息ついたら、観光のご案内をしますから、カウンターに来てくださいね。それと、トイレの紙は流さず、ゴミ箱に捨ててください」

「谢谢!」

 その男性は色黒で痩せ型、メガネをかけていて優しそうな雰囲気だ。たぶん40代ぐらいだろう。英語が堪能である。穏やかな口調で、英語が苦手な僕でも理解できるよう、簡単な単語でゆっくりと説明してくれた。

 その隣には70代ぐらいの小柄なおばあさんが座っている。たぶん男性のお母様ではないか。ご家族で経営なさっているのだろう。日本語も英語もあまり分からないようではあったが、僕たちのやりとりを微笑ましそうに眺めていた。

 部屋は広さ12畳ほどの洋室で、ツインベットが中央に備えられている。壁には薄型の液晶テレビがかけられ、室内にシャワー・トイレルームがある。窓を開けると冷たい空気が流れ込む。部屋の窓際の小さなデスクには、ホテルの案内や観光パンフレットがきれいに並べられていた。

 荷物を置いてシャワーを浴び、観光マップを手にふたたび男性のもとへと向かう。

「観光案内をするね。今、ここにいます。レストランや土産屋はホテルの南側のエリアで、階段を登ればすぐだよ」

 ホテルから5分ほど歩いた場所に商店街やレストラン街があるのだが、その手前にある階段がくせものだった。ほんの20〜30段ぐらいの階段で、駅の階段を登るようなものだが、ここは標高約2,200mである。酸素が薄いのだろう。階段を上っただけで息が上がってしまい、これにはすっかりまいってしまった。

「遊楽区には遊園バスが走っているから利用するといいよ。バスから降りて、ここまでは歩いて20分ぐらい……ここまでは歩いて30分ぐらい。全部歩きだと1時間10分ぐらいかな」

 男性は地図を指差して説明しながら、所用時間や観光ポイントを地図に丁寧に書き込んでくれた。その熱心な仕事ぶりと、おもてなしの精神に感激した。隣では、やはりおばあさんがにこにことやり取りを見守っている。

「ところで、サムライ列車には乗るかい?」

 ——サムライ列車。

 僕と妻は顔を見合わせた。