instagram

台湾の避暑地「阿里山」へ、世界三大登山鉄道の旅#1

 日本を飛び立ち鉄道を乗り継ぎ、たどり着いた阿里山はむせかえるほどの緑の香りに包まれていた。

 約1時間も峠道をバスに揺られて、少し酔ったのだろうか ——。あるいは標高が高く酸素が少し薄くなったせいか——はたまた、圧倒的な緑に気圧されているのだろうか、頭がクラついて落ち着かない。

 標高約2,200m。

 真夏だというのに、まだ雪どけが始まったばかりの春先のように空気が冷たかった。

 エントランスゲートをくぐり、阿里山・国家森林遊楽区へと入場する。ツーリストサービスセンターでホテルの場所を確認し、ようやく萬國別館(ワンコウ・ホテル)に到着した。

「ところで、サムライ列車には乗るかい……? そう、サムライ列車だよ」

 ホテルの男性スタッフが観光案内をしてくれるものの、僕と妻はサムライ列車が何のことだかさっぱり分からない。

「ガイドブックには、サムライ列車なんてなかったのに」

 男性スタッフの隣に座っている小柄なおばあさんが、笑顔でやりとりを見守っていた。

 2019年の夏休みを利用して、義父が駐在している台湾を訪れた。台湾といえば台北や九份(キュウフン)が人気スポットで、もちろん訪れる予定ではある。しかし今回のメインは、台中の山岳地帯、阿里山を走る、登山鉄道の旅なのだ。

阿里山森林鐡路

 阿里山森林鐡路(アリサンシンリンテツドウ)は、台湾の中部にある阿里山山脈の主峰・阿里山(標高2,481m)と、台中の嘉義(カギ)駅を結ぶ登山鉄道である。インドのダージリン・ヒマラヤ鉄道、チリからアルゼンチンを結ぶアンデス山鉄道とともに、世界三大登山鉄道のひとつに数えられている。嘉義駅を出発した列車は、なんと標高差2,000m以上を登りつめるのだ。

 1904年、日本統治時代に日本人による森林開発が進められ、1912年に阿里山森林鐡路はほぼ開通した。それ以来、檜木や扁柏、スギの良材を産出し、日本の名だたる寺社の建材として利用された。阿里山はかつて台湾三大林場のひとつだったのだ。

旅の始まりは北門駅から

▲高鐵嘉義駅は近代的で、日本の新幹線の駅にとてもよく似ている

 午前8時すぎ、高鐵嘉義(コウテツ・カギ:新幹線の嘉義)駅に到着してタクシーに乗り込こみ、ドライバーに行き先を告げた。走り出すと、どうも僕が告げた駅を通り過ぎるようだ。

「もしかして、だまされたか——」

 と一抹の不安がよぎったが、実はそうではなかった。

 本来は森林鉄道の始発駅である嘉義駅から乗る予定だった。が、ドライバーいわく、北門(ペイメン)から乗ったほうがいいという。近代的な嘉義駅よりも、あえて一駅先に進み、往年の森林鉄道の駅を彷彿とさせる北門駅から乗る観光客も多い。ドライバーは「嘉義駅よりも、北門駅を見たほうがいいよ」と伝えたかったのだ。

 おかげで、木造のレトロな駅舎の雰囲気を楽しめ、当時の森林鉄道の様子を垣間見られた。タクシー料金は400元(約1,440円)と、どうやら高鐵嘉義から嘉義までの金額で、その先の北門駅まで行ってくれたようだ。ありがとう、タクシードライバー。

▲森林鉄道開通当時の面影が残る、北門駅

 駅周辺を散策して、いよいよ到着した列車に乗り込む。念のために窓口で切符を確認してもらった。

「この切符で乗れますか?」

「もちろんだよ! でも、切符にある十字路(シーツールー)駅までは行かないよ。終点は途中の奮起湖(フェンチーフー)駅までだ。そこで払い戻してもらってね」

 なんだと、途中までしか行かない!? 

 予想外の返答に、この先の旅程を心配したが、とにかく列車に乗り込んだ。