【北摂・大岩ヶ岳ピークハント】大岩、千苅、丸山、飛瀬、点在する4つの三角点を踏査せよ!
武庫川に霧が立ちこめる、幻想的な朝だった。
冷たく澄んだ秋の光が差し込む車道を、JR道場駅を出発し、武庫川沿いに東山橋へと歩いている。そこから入山し、大岩(269.6m 四等三角点)、千苅(384.1m 二等三角点・大岩ヶ岳)、丸山(281.4m 四等三角点)、飛瀬(250.2m 四等三角点)の4つの三角点を踏む予定だ。
もし大岩ヶ岳で、仲間とお弁当を広げ、景色を楽しみながらワイワイとハイキングをやりたいとお考えなら、ごめんなさい、この記事は全く役に立ちません。眺望も名勝もなし……いや少しはあるが、しかしヤブあり悪路あり。そんな道を、ただただ三角点を探し求めてストイックに踏んでゆきます。2021年春の挑戦では最後の最後にルート選択を誤り失敗した。
今日は、リベンジだ。
P269.6m 四等三角点・大岩
東山橋から北東に進み、民家の手前の徒歩道から尾根に取り付く。そのまま尾根を進み、2本の鉄塔を経て分岐に到着した。この道には「村有林」の石柱があり、管理・整備されているようだ。尾根上からの眺めはよく、気持ちよく歩ける道である。
油断ならないのが尾根の先の分岐だ。道標はなく、分岐の手前には、踏み跡が錯綜している広場のような場所もある。注意深く現在地を確認しながら進み、分岐から進路を北西に。いったん谷へ下り、三角点へ続くコル(鞍部)を探す。そこから尾根伝いに歩けば四等三角点・大岩に到着だ。
この三角点は簡単に探せた。周囲の地形はメリハリが利いており、尾根、谷、コルをはっきりと目視できる。足下はヤブだが薄い踏み跡が続いており、それをたどれば難なくクリアできるだろう。

P384.1m 二等三角点・千苅(大岩ヶ岳)
次なるピークを目指すべく、元来た道を再びコルまで戻る。そこから谷筋の悪路を進み、千苅ダムからの一般登山道へ出合う。この先、大岩ヶ岳に向かうルートは、千苅ダム周回ルートと南ルートに分岐している。僕は南ルートを選んだが、地図を見ると千苅ダム周回ルートは大岩ヶ岳の稜線に続いており、眺望に恵まれているかもしれない。次回はそちらを歩いてみよう。

二等三角点・千苅は大岩ヶ岳の山頂にある。『山と高原地図|北摂・京都西山』に記載されている一般道をゆくだけだから、ここも難なく踏破できた。標高わずか384.1mだが、大岩ヶ岳からの展望はよく、北側の布見ヶ岳や羽束山(はつかやま)をはじめ、三田や丹波篠山の山々を望める。それだけに大岩ヶ岳はやはり人気の山なのだろう。僕が到着してから続々とハイカーが訪れ、小さなピークはあっという間に満員になった。
「あなた、どこから登ってきたの?」
50代ぐらいの、いかにも山好きそうな、快活な女性に声をかけられた。聞くとグループで千苅ダム周回ルートを登ってきたのだそうだ。
「僕は南ルートから……。これから、四等三角点・丸山を踏んで、さらに四等三角点・飛瀬までゆくつもりです」
「あら、昔行ったことがあるわ。たしか踏み跡があったから、きっと大丈夫よ」
前回挑戦したとき、最後の三角点・飛瀬の手前で僕はミスを犯した。ヤブと沼地に捕まり、ルートを見つけることができずそのまま下山したのだ。しかし踏み跡があるのなら、今日はクリアできるだろう。良い情報を入手でき、気分上々で次なるピークへと向かった。
ちょっと寄り道、東大岩岳と馬の背

地形図や山と高原地図には記されてはいないが、大岩ヶ岳のすぐ東にある東大岩岳とその先の馬の背が、名勝地として人気のようだ。せっかくだからと登ってみると、そこには大岩ヶ岳と千苅ダムを望む、素晴らしい景色が広がっていた。
一年に一度、訪れては去ってゆく秋の紅葉も、そのピークと呼べるのはわずか1日だけではないだろうか。桜の満開や、中秋の名月がそうであるように——。
今日は幸運にも、大岩ヶ岳の紅葉のピークに、きっと出合えたに違いない。馬の背から眺める大岩ヶ岳は紅葉が真っ盛りであり、その山肌はちりめんの布団を敷いたように紅葉が広がっていた。
美しい。
都会からほど近い低山で、こんな景色を拝めるとは。秋の爽やかな風が頬をなでてゆく。山の善し悪しは、決して標高だけで決まるものではないのです。
丸山から四等三角点・丸山、そしてP250.2四等三角点・飛瀬へ
当初予定にはなかったが、東大岩岳からの下山途中、地図を見ると丸山(標高点325m)にも登れるようだ。ここもせっかくだからと、途中に荷物をデポして登ってみた。頂上には「一級基準点」の石柱が埋められており、ここも測量のための大切なポイントなのだろう。
四等三角点・丸山には、丸山第一湿原北分岐から南西に進路をとり、登山道に沿って進めばよい。問題はこの先の、飛瀬だ。

四等三角点・丸山からヤブがちな尾根を南に進むと、木々の間から川下川ダムが見えてきた。選定したルートを外さないようにゆっくりと進み、その先の分岐に到着する。ここから尾根伝いに進めば飛瀬に到着するはずだ。先ほどの話では踏み跡があるらしい。が、はて、一体どこにあるのか。地形図とコンパスを操作しながら進むも、ヤブに阻まれてどうにもならない。ここを突破するにはチェーンソーでもなければ無理だ。
むむむっ、尾根伝いに進めないとなると、いったん下って谷から攻めるか。
一度、正規の登山道まで戻り、飛瀬のピークを左手に見ながら西に進んでゆく。が、どう見たって登れるような場所がない。また、諦めるしかないのか。
——いや、ヤブの薄い場所を見極めて、直進で突破しよう。
山で道に迷ってどうにもならなくなったとき、その最後の最後の手段が目標物に向かって直進することだ。とにかく、まっすぐ進むのである。
ここで今日初めてGPSを立ち上げる。現在地を確認する。プレートコンパスに方位角をセットする。まっすぐ進む。ピークへ向かって直進だ——が、まさかの隠れピークにだまされる! マジかよ。もう一度ピークへ向かって進む。ヤブをかき分ける。だんだん空が近づいてきたぞ……!
あった。ようやく見つけた、四等三角点・飛瀬。でも何もありません。ただただ、そこに三角点があるだけ。だがようやく、これで大岩ヶ岳の4つの三角点を踏むことができたのだ。
下山路を探していると、赤いテープの目印が付けられた踏み跡を発見した。やはり道がついていたのか。しかしたどってみると、すぐに途切れてしまった。再びヤブ漕ぎを強いられ、力業で登山道に合流する。イバラ混じりのヤブはウエアを貫通して肌を切りつけてくる。帰宅してみると、足に数カ所切り傷ができていた。
よく管理された登山道を歩き、山頂で景色を眺めながらお弁当を広げ、帰りには温泉で汗を流す。こんな山行ももちろん大好きだが、数を重ねるとだんだん物足りなくなってくるものだ。少しばかり冒険したい、探検したいと思うのなら、この大岩ヶ岳のピークハントに挑戦してみてはいかがだろう。
が、本ルートは一部登山道を離れる。出かけるときは、どうか気をつけて。
大岩ヶ岳ピークハントのデータ
- 標高:384.1m(大岩ヶ岳・二等三角点千苅)
- 距離:約13km〜コース取りにより異なる
- コースタイム:5時間〜ルートファインディング能力により異なる
- コース:JR道場駅→東山橋→四等三角点・大岩(P269.6)→千苅ダム周回ルート・南ルート分岐→大岩ヶ岳(二等三角点・千苅P384.1)→東大岩岳→丸山→丸山第一湿原北分岐→四等三角点・丸山(P281.4)→四等三角点・飛瀬(P250.2)→東山橋→JR道場駅
- アクセス:JR「道場駅」下車、東山橋まで徒歩約15分
上の地図データはあくまで参考程度にしかならない。ピークに至るルートはおそらく複数あり、コース取りにより、タイムや距離が変わってくるからだ。僕は数種の山地図アプリと2万5,000図、さらに拡大した1万5,000図を携えて歩いた。イバラのヤブにはくれぐれもご注意を。