六甲山 ドントリッジ

知る人ぞ知る!六甲山の登山コース【北ドントリッジ・南ドントリッジ】ハイキング

 神戸市・六甲山は海岸から山頂までの平面距離がわずか数キロしかない。その狭い範囲の中に標高差が900m以上もある。山とはいえ都市に近く交通が発達しており、アクセスがいい。そのおかげで関西有数のレクリエーションの場として親しまれるようになった。

 しかし人気の高さゆえに、週末ともなれば登山道でさえ渋滞することがある。これでは有名観光地とかわらないではないか……。

 そんなモヤモヤを感じている人におすすめしたいのが、六甲山のマイナースポット「ドントリッジ」だ。

ドントリッジとは

 ドントリッジとは、明治時代後期に六甲山で登山を開始した登山家「H.E.ドーント」が好んで歩いた登山道のことだ。高雄山から分水嶺越林道へと続く「南ドントリッジ」と、分水嶺越林道から森林植物園へと至る「北ドントリッジ」に分かれている。『山と高原地図・六甲摩耶』ではグレー破線に分類され、玄人好みの登山道といえるだろう。

 「リッジ=痩せた岩尾根」の字のごとく、ドントリッジは細い尾根道を歩くコースで小さな岩場もある。マイナーなコースであり踏み跡が不明瞭な箇所もある。特に北ドントリッジは一般登山道ではなく、道標も設置されていない。

 基本的には道中に点在する石柱を目印に、尾根を外さないように歩けばよいのだが、ナビゲーションスキルが欠かせない。個人的には、ドントリッジには2万5000分ノ1地形図でも縮尺が大きく感じる。1万5000分ノ1地形図や、吉備人出版の「六甲山系登山詳細図・西編」をおすすめしたい。

新神戸駅からドントリッジを歩く

神戸の名瀑「布引の滝」は、平安の昔から歌や文学で親しまれた

 新神戸駅の改札をくぐると、そこは再度山(ふたたびさん)や摩耶山への玄関口だ。駅のすぐ裏手が登山口であり、この抜群のアクセスの良さが魅力である。

 長い階段を上り、布引の滝から見晴らし展望台へ、そして布引貯水池を経て市ケ原へと向う。市ケ原までは観光地の延長であり、遊歩道が整備されている。駅から約1時間で市ケ原に到着だ。

市ケ原にはトイレや自販機があり、休憩適地だ

 市ケ原から先が本格的な登山道の始まりである。まずは高雄山山頂を目指す。

 やや荒れた登山道を進むと、高雄山の主稜線に出合い、さらに北に進めば高雄山に到着だ。

 高雄山の標高は476m。山頂は狭く展望もないが、とにかく静かな場所だ。僕のように人混みをさけて山を楽しみたい人にはうってつけの場所だろう。高雄山からさらに北に進むと、いよいよドントリッジである。

六甲山登山の立役者「H.E.ドーント」

 1868年(明治元年)に神戸港が開港され、それと同時にイギリス人貿易商「A.H.グルーム」が神戸を訪れ、住み始めた。彼は六甲山で初めての別荘を三国池のほとりに構え、外国人たちに紹介したのだ。これが六甲山開発の始まりである。

 グルームはそれまで生活の糧(例えば薪や水)を得る場所であった六甲山をリゾート化し、1903年(明治36年)には日本初のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」を創設した。現在では六甲山開拓の祖として讃えられ、記念碑台に像が建てられている。

 六甲山の開拓史の中で、A.H.グルームと並び「H.E.ドーント」の存在も忘れてはならない。神戸ゴルフ倶楽部は積雪や悪天候を理由に冬季は閉鎖され、活動ができなかった。その間のレクリエーションとして、H.E.ドーントを中心に、神戸に住む外国人たちが六甲山で登山を開始したのである。ドーントは登山団体「The Mountain Goats of Kobe(神戸カモシカクラブ)」を設立し、仲間と共に冬の六甲山や摩耶山に多く登ったのだ。

 ドーントらの六甲山での活動は、日本における近代登山の幕開けであり、六甲山は日本の登山文化の発祥地であるのだ。六甲山各地に現在も残る欧風の地名「トゥエンティクロス」「アゴニー坂」「シェール道」などは、ドーントらにより名付けられた、六甲山登山の黎明期の名残である。※参考:六甲山における外国人別荘地の成立と展開 上垣 智弘, 安島 博幸

ドントリッジ

 高雄山から分水嶺越林道へと進むと、旧字体で「神戸區(神戸区)」と書かれた石柱が現れる。ドントリッジはこの石柱が建てられた尾根沿いの道であり、石柱を目印に進むことができる。とはいえ、この付近には複数の登山道が走っており、それだけを目印に進むのは危険だ。地形図や登山地図アプリでルートを確認しながら慎重に進む。

 南ドントリッジは思ったより展望がよく、東には摩耶山の稲妻坂や黒岩尾根を望める。送電線以外の人工物は視界に入らず、まるで深山幽谷の稜線歩きを楽しんでいるようだった。

高雄山の周辺は分岐が多い。くれぐれも道迷いには注意

 小さなアップダウンを経て南ドントリッジを下っていくと、分水越林道へと出る。分水嶺越林道から先が北ドントリッジだ。この取り付きが分かりにくいので注意しよう。分水嶺越林道を「行き止まり」へと進むとその先に神戸市水道局の設備があり、そこが北ドントリッジへの取り付きだ。ガードレールに書かれた「北ドントリッジ→」が唯一の目印である。

分水嶺越林道の行き止まりに、北ドントリッジの取り付きがある

 まずは460mの小ピークを目指す。序盤から急坂である。

 北ドントリッジは地形図上でもアップダウンが読み取れるが、実際には隠れピークが多数あり、僕もだまされそうになった。地形図の等高線間隔が10mの場合、10m未満の高低差は地図に表記できない。ということは等高線1本の最大の高低差は19mである。地形図上で等高線がない、あるいは1本分の高低差であっても、実際には平坦な道とは限らないのである。460mのピーク付近は、地図上ではアップダウンは少ないように思われるが、小さな岩場やアップダウンの連続だった。

460mピーク付近から東、摩耶山方面を望む

 ピークから先は尾根伝いに北北東へと進む。うっすらと踏み跡があり、尾根や石柱を目印に進めばよいが、くれぐれも尾根を外さないように注意したい。

南ドントリッジと同じく、地形と石柱を目印に進む

 進んだ先に再び小ピークが現れ、道は尾根伝いに徐々に西へと続き、森林植物園へと進んでいく。

 北ドントリッジのゴールは神戸市立森林植物園の園内だ。園内にあるトンネルの東側、展望台へ続く階段に出合う

トウェンティクロス

 森林植物園には神戸電鉄「北鈴蘭台駅」への送迎バスがあるから、ここでエスケープするのもいいだろう。余力のある人は登山道を歩き、再び新神戸駅まで歩いてみよう。

 森林植物園の東門から先は登山道「トゥエンティクロス」へとつながっている。沢沿いの爽やかな登山道で雰囲気もいい。

 ただし、崩落箇所があるので注意したい。トゥエンティクロスの一部である高雄山の麓が大きく崩落しており、危険な状態である(2021年8月現在)。通行できなくはないが、なるべく案内にある迂回路を選択しよう。詳しくは神戸市の「六甲山系登山道 通行止(通行注意)状況」を確認してほしい。※参考:神戸市

 トゥエンティクロスを歩き、森林植物園から約1時間で市ケ原に到着する。ここからは朝きたルートを戻り、新神戸駅に下山する。

 ドントリッジは六甲山開拓の黎明期にH.E.ドーントが好んで歩いた歴史のあるルートだ。現在ではマイナールートであるが、ルートファインディグを楽しんだり、人混みのない静かなハイキングを楽しんだりと、週末に大勢のハイカーが訪れる六甲山域において玄人好みのルートである。一般登山道では物足りない、そんな人にぜひおすすめしたい。地形図と登山地図アプリを用意して、ぜひ出かけてみよう。

六甲山・ドントリッジのデータ

  • 標高:476m(高雄山)
  • 距離:約12km
  • コースタイム:約5時間30分
  • コース:新神戸駅〜市ケ原〜高雄山〜南ドントリッジ〜分水嶺越林道〜北ドントリッジ〜神戸市立森林植物園〜トゥエンティクロス〜市ケ原〜新神戸駅
  • アクセス:JRおよび神戸市営地下鉄「新神戸駅」下車すぐ
  • 立ち寄り湯:神戸クアハウス・大人990円から(https://kobe-kua-house.com
自然愛好家。大阪府山岳連盟・大阪青雲会に所属し、週末には関西近郊の里山にふらりと出かけていく。日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定・シルバーレベル取得。フルマラソンベスト3時間29分。