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ナチュラルランニングとルナサンダル|Oso Flaco 2.0

 膝の痛みが、ネックだった。

 走りたい気持ちがあるのに、仕事終わりに自宅周辺を20分程度なら走れる体力もあるのに、学生時代にバスケットボールで痛めた膝がそれを許さない。今思えば、バスケットシューズのクッションに任せて乱暴なジャンプと着地を繰り返した結果ではないか。せっかく購入したランニングシューズも、下駄箱のオブジェと化すのは時間の問題だったのだ。

ナチュラルランニングとの出会い

 それから数年後——。

 20代もいよいよ終盤を迎えたある年の秋、ハイキングの体力作りのために、なんとなくまた走りたいと思った。ハイキングや登山の教本には大抵、トレーニングにはランニングが有効だと書かれているからだ。特別な道具もいらず、手軽に始められることも大きい。さっそくスポーツ用品店に足を運び、シューズを選ぶことにした。

 2010年に日本で発売され、ヒットを飛ばしていた『BORN TO RUN 走るために生まれた クリストファー・マクドゥーガル(著)』の影響だろう。当時は裸足感覚シューズの全盛期で、店頭にはさまざまなモデルが並んでいた。

 『BORN TO RUN』は、著者のクリストファー・マクドゥーガルの素朴な疑問から物語が始まる。「どうして私の足は走ると痛むのか——」その答えを探す中、メキシコの先住民族「タラウマラ族」に行き着くのだ。

ルナサンダル
▲ワラーチを近代的に改良し、製品化したのがルナサンダル

 走る民族と呼ばれるタラウマラ族は、古タイヤと革ヒモで作ったワラーチ・サンダルを履き、50マイル(約80km)のレースで、ウルトラランニングのスター、スコット・ジュレクを負かしたのである。

 店内を物色しているうちに、あるキャッチコピーが目に留まった。

<膝が痛くならないランニングシューズ>

 どうやら体の本来の力を発揮するための、極薄ソールのシューズらしい。ワラーチ・サンダルのような、裸足感覚のシューズである。試し履きをしてみると、そのソールのあまりの薄さに不安を覚えたものの、購入して少し走ってみることにした。不摂生がたたり、当時はそれこそ1km走るのがやっとだったが、なんとか走れるではないか。

「確かに膝が痛まない!」

 こうして僕はナチュラルランニングを実践するようになり、フルマラソンを足袋で走り、3時間半を切ることになるのであった。

ナチュラルランニングとは

 ナチュラルランニングとは、もっとも理にかなった人間本来の走り方のことだ。クッションの利いたシューズを脱ぎ捨て、足を置く位置を調整し、地面を蹴らず全身を柔らかく使い、着地の衝撃を推進力として利用しながら走るのである。

 まず重心を前に移動し、足は体が前方に倒れてしまわないようそっと支えるだけ。足を重心の真下に着地するから、実践してみると、きっと歩幅が狭くなったように感じることだろう。

 極薄のソールは小さな小石を踏んだだけでも痛い。だから路面をよく観察するようになる。クッションがないから足裏全体を柔らかく使い、衝撃を吸収しながらフラットに着地しなければならない。歩幅は狭く、フラットに着地する、この動きは山の歩き方にも通じるものがあるのである。

 僕は山に同行する仲間から「君は体力があるな!」とよく言われるが、それは少し違う。ナチュラルランニングを通して体で覚えた足さばきのおかげで、人より疲れにくい歩き方が身についているだけのことなのだ。

ルナサンダル|ベアフット・テッドが製品化したワラーチ

ルナサンダル

 ルナサンダルは、『BORN TO RUN』の登場人物、ベアフット・テッドが製品化したものだ。ワラーチは本来、古タイヤと革ヒモから自作するものなのだが、僕の場合、自作してもしっくりとこなかった。世界中で愛用されるルナサンダルを、どうしても試してみたかったのだ。実物で走ってみると、なるほど完成度が高い。ルナサンダルが愛用される理由が分かった。

ビブラムソール

ルナサンダル

 ルナサンダルにはいくつかのラインアップがあり、僕の選んだ「Oso Flaco 2.0」は、ベース7mm + ラグ4.5mmのビブラム・メガグリップソールが採用されている。これはルナサンダルの特注品だろう。長らく靴業界に携わった僕なら分かるが、このソールだけで数千円はするはずだ。まず個人では手に入らないし、特注ソールが採用されているということはルナサンダルを選ぶ理由にもなる。ソール全体の厚みが11mm以上あり、グリップ力に優れるソールはトレイルでも安心して走れた。多少の小石を踏んでもソールの厚みが吸収してくれるのだ。

フットベッドは滑らないMGT(Monkey Grip Technology)

 僕が思う自作ワラーチの欠点は、ぬれるとフットベッドが滑る点だ。雨や汗でサンダルがぬれると、フットベットの上で足がツルツル滑り踏ん張りが効かなくなってしまう。

 ルナサンダルが届いたとき、僕はわざわざシャワーでぬらして試しばきをしたほどだ。MGTはその名の通りほとんど滑らないではないか。レースをうまく調整すれば雨でも安心して走れそうだ。

Performance Laces 2.0

 元祖ワラーチは革ヒモだが、ルナサンダルのベルトはPerformance Laces 2.0が採用されている。ルナサンダルオリジナルのバックルが使われ、調整が容易な上に丈夫で足あたりの良い素材が使われている。靴ずれの心配がある鼻緒部分は、厚みが他の部分より薄くなっていて、指の股になじみやすい。

 縫製がやや荒い部分が見受けられたが、支障をきたす程ではなく、シアトルの工場でハンドメイド生産されている情景が目に浮かぶ。

 2010年ごろ、「ベアフットランニング」や「裸足ランニング」が耳目を集めた。が、裸足や裸足感覚シューズでの走り方、走る意味が十分に周知されなかったため、間違った実践方法によるマイナスイメージが多く流れてしまった。ルナサンダルで、クッションの利いたシューズと同じ走り方をしては故障するのは当然である。

 僕がナチュラルランニングを始めてから足袋でフルマラソンを走れるようになるまで約5年の歳月を要した。シューズに甘やかされてきた足の機能を覚醒させるには、時間がかかるのだ。くれぐれも無理は禁物である。

 寒い冬が終わり、春の風が吹き始めるとルナサンダルの良い季節がやってくる。シューズに閉じ込められた足を解放して走るのは、まるで野生に戻ったかのような感覚を感じるとともに、シンプルなランニングの魅力を再認識できる。

 ——RUN FREE !——

 ルナサンダルのキャッチコピーのように、自分を解放して自由に走ろう。素朴な道具と走りたい気持ちがあれば、いつでもどこでも楽しめるのがランニングの魅力である。