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自衛隊仕様の精巧なサイティングコンパス【YCMレンザティックコンパス】

 山好き地図好き、コンパス好きを自負する僕は、いつか手に入れなければならないと思っていたのだ。

YCM|レンザティックコンパス No.9000L

レンザティックコンパス 9000L

 先の大戦で活躍した軍用コンパスであり、現在も防衛庁の認定商品として採用されている。方位角の目盛り盤には、一般的な度数目盛りの他、ミル目盛りが配され、その細かい目盛りを読むためのレンズと、目標の方位を正確にとらえるための照準器を備えている。金属製のボディに歪みやがたつきは一切ない精巧な道具だ。タフに使える日本製(YCM|株式会社ワイシーエムコーポレーション)コンパスである。

実は出番の少ない、プレートコンパスのプレート部分

 レンザティックコンパスを手に入れた、といってもあまり出番は多くはないだろう。一般登山やハイキングで、レンザティックコンパスほどの機能を必要とする場面に遭遇することなど皆無に近い。やはり山歩きには、シルバやスントのプレートコンパスがおすすめだ——と言いたいところだが、実はプレートコンパスのプレートも、あまり出番がないのである。

 山で使うコンパスは「シルバ No.3」や「SUUNTO A-30」が定番品であり、このブログの読者も愛用者が多いことだろう。山雑誌の読図特集や、地図読みの入門書では、たいていこのようなコンパスが推奨されている。

 が、プレートコンパスの最大の特徴であるプレートと回転リング、これらは目標の少ない森や荒野を、角度を維持してまっすぐ進むためのものである。プレートコンパスが誕生した、北欧の地形に対応するためのものだ。

 ひるがえって日本は、尾根、谷、鞍部など地形がはっきりしている。つまり現在地確認やルートを維持するための、目標物がたくさんあるということ。このような環境のナビゲーションでは、地図を整置し、地形を読み、方位を読み、現在地を絞りこむ。複雑なプレート操作など必要はなく、整置が基本中の基本であり、地図を整置するためにコンパスに求められる機能は「北が分かる」ことである。ちなみに、地図とコンパスの基本についてはこちらの記事を参考に。

夜間、ヤブ山、ホワイトアウトでの行動には方位角計測が必要になる

 整置がナビゲーションの基本であれば、コンパスは小型のサムコンパスで事足りる。しかし、地形や周囲の風景が目視できない状況では、プレートコンパスやレンザティックコンパスなど、進行方向を計測し、その方向を維持できるコンパスが必要だ。

 僕の場合、緊急時をのぞいて夜間行動はしない。ブリザードが吹きすさぶ雪山もやらない。が、ヤブ山は大好物で、自分の背丈ほどあるヤブに囲まれて、視界が遮られることも珍しくない。そうなると地形が分からず、尾根をたどることさえ難しくなることがあるのだ。この状態で、サムコンパスでは心許ない。地図上で現在地から目標物までの方位を正確に計測し、その方向を維持して進む必要があるのである。

方位をミル目盛りで計測できるレンザティックコンパス

レンザティックコンパス 9000L
▲照準器で目標を正確にとらえながら、レンズで目盛り盤を読む。これがレンザティックコンパスの基本の使い方

 レンザティックコンパスの最大の特徴は、ミル目盛りと照準器だ。

 通常、円は度数で表され、言わずもがな1周は360度だ。しかし、1度の開きは意外と大きい。1度は1km先で17mの開きがあり、距離が伸びるほど開きが大きくなる。

 対してミル目盛りは、もともと軍用ロケット砲の水平照準角に使われた単位である。円を6400分割する。

  • 360度÷6400=0.05625度=1ミル

 1ミルの、1km先の開きはわずか1mである。円をより細かく分割することで、度数より精密に方位を計測できるのだ。

▲レンザティックコンパスを構えるとこんな感じ
レンザティックコンパス 9000L
▲レンズをのぞくとこんな感じ。目盛り盤の上段がミル、下が度数目盛りだ。写真では2400ミル、約135度を指しているのが分かる

 1km先で17mの開き、と言われても、正直ピンとこない。しかしミルはもともと砲撃用の目盛りだと改めて考えてみると、照準を合わせるのに17mも開きがあれば、確実に誤射となることは容易に想像できるだろう。

オリエンテーリングの常設コースで直進してみた

レンザティックコンパス 9000L

 さっそく、大阪城公園のオリエンテーリングコースでレンザティックコンパスをテストしてみた。地図上で現在地と目的地の方位を確認し、直進する。直進とは、地図から進行方向を読み取り、その方位を維持して進むこと。目標のない森や、視界の効かない状況での、ナビゲーションのテクニックである。

 広い公園の中、直進するといっても途中には障害物があるから、その障害物を中間ポイントにみたて、そこを経由しながら見えない目標に向かってひた進む。

▲地図を整置し、本体のスケール部分で現在地と目的地を結ぶ。目盛りを読むと進行方向の角度が分かる。この角度を維持して進むのだ

 最初、使い慣れたスントのミラーコンパスや、超速磁針を搭載したレース用サムコンパスに比べて、レンザティックコンパスのゆったりとした針の動きに戸惑った。サムコンパスが一瞬で北を指しピタッと針が止まるのに対し、レンザティックコンパスはじわりと針が動く。癖をつかまなければならない。

 が、いったん癖をつかむと、それはもう正確に、精密に方位を計測できる。何せ度数目盛りで323度……いや324度かと曖昧なところを、5740ミルと断定できるのだ。

 照準器とレンズをのぞきながら、現在地から5740ミルの方位を確認し、その照準器で中間地点の目標をとらえる。森の中の木を目標とした。その木に向かって進む。到達した中間地点からまた5740ミルの方位を確認し、照準器で目標をとらえる。そして進む。これを繰り返す。

 そうして進んだ先には、自分の”真正面”に目標が現れたのだ。1歩右にずれた、左にずれた、なんてこともない。微塵のズレもなく、真正面に目標が現れたときには鳥肌が立ってしまった。

 むろん、いつもいつも上手く直進できるとは限らない。人は明確な目標物がなければ真っ直ぐに歩けない動物だからだ。必ず左右にずれる。レンザティックコンパスを使いこなし、方位角計測によるナビゲーションを極めるためには、相当な訓練が必要となるだろう。

 しかしまぁ、家族連れの観光客やランナーでにぎわう休日の大阪城公園で、30代後半の男性が地図を片手にし、見たこともない怪しい道具を顔の前に構えながら森の中に消えてゆく姿は、とっても怪しかったことだろう。が、ナビゲーション道を極めるためには、奇異の目にさらされることも、やぶさかでないのである! と言いたいところだが、良識ある読者は、少しは他人の目を気にしよう——いや、僕の真似をする人なんて、いないか。

信頼できるサブコンパスとして

 レンザティックコンパスを使いこなし、歩測や高度計をナビゲーションの補助として使えば、たとえ暗闇の中でも相当に高度なナビゲーションができるだろう。

 とはいえ、いかに正確に方位を計測できるといっても、僕のような一般市民にミル単位ほどの精密さは求められない。普段使っているスントのプレートコンパス、あるいはミラーコンパスの精度で十分過ぎるほどだ。実際、最初に述べたように日本の山々では方位角計測の機会はあまりない。

▲多少ぶつけてもびくともしないであろう、頑丈さがとにかく気に入った。絶対に壊れないという安心感がある

 しかし、強く正確な磁針に金属製のボディをまとい、大戦中から変わらず現在も自衛隊に採用される日本製コンパスは、とにかく信頼性が高い。メインのコンパスはこれまで通りサムコンパスとし、予備のコンパスに、このレンザティックコンパスの採用を決めた。

 使わないときはデスクで地図を広げ、レンザティックコンパスを取り出し、机上サバイバルを楽しむことにしよう。もし飛行機でジャングルに墜落したら、レンザティックコンパスを使って、現在地を割り出し脱出するのだ……。なんて妄想を子供のころから続けている、中二病から抜け出せない30代後半の男性、それが、このサイトの管理人である。

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