ハイキングで疲れにくい歩き方と上手な休憩の取り方

 せっかく自然の中でリフレッシュしようにも、疲れて景色を見る余裕もなかった——。

 初心者の中には、そのあまりのつらさに「二度と山など登るものか!」なんて心に誓った人もいるかもしれないし、経験者であれば山歩きを始めたばかりのころ、歩くのに精一杯で余裕がなかったことを思い出すのは、きっと僕だけではないだろう。

 しかしちょっとしたコツさえ覚えておけば、バテずに、余裕をもって、山を楽しめるようになるかもしれないのだ。

疲労をためない山の歩き方・休み方がある

 普段僕たちが歩く場所は、舗装された平坦な場所か、登り下りがあっても、せいぜい駅やマンションの階段ぐらいのものだ。もっとも、その階段でさえエスカレーターやエレベーターを使えば歩かずに済んでしまう。

 しかし山中ではそうはいかない。登山道は障害物だらけだし、急なアップダウンだってある。ときには鎖をよじ登ることもあるし、雨や雪で登山道の状況はがらりと変わる。よく整備された登山道であっても、街を歩くようにはいかないのだ。

 山歩きは有酸素運動の中でもちょっと特殊な部類なのかもしれない。アップダウンがある不整地を長時間、短くても半日から丸一日、長ければ2泊3日、ときには1週間以上も歩き続けるスポーツである。このような長時間におよぶ有酸素運動に対応するには、ただ”歩く・休む”というシンプルな行動でさえコツやテクニックが必要であり、突き詰めれば、それは技術と呼べるものになるのだ。ただ体力に任せて歩くのは卒業しよう。疲れ知らずに効率よく歩く方法を、ぜひマスターしておきたい。 

疲れにくい歩き方

 たいていの場合、初心者が山でバテる原因は「速すぎるペースで歩くこと」だと、登山運動の研究をされている山本 正嘉 教授(鹿屋体育大学)が述べている。逆にいえば、ゆっくりと歩くことがいかに大切かということだ。

山本は,登山の上りにおける代表的な疲労原因の一つとして,LTを超える速度で歩くことによる乳酸の過剰な蓄積を指摘している.そして,LT水準以下の速度で歩くためのガイドラインとして,75%HRmax以下,あるいはRPEが13以下のペースで歩くことを推奨している.

引用:歩行路の傾斜,歩行速度,および担荷重量との関連からみた 登山時の生理的負担度の体系的な評価  萩原正大 山本正嘉 体力科学,60(3): 327〜341 (2011)

 上の引用文を読んでも何のことやらさっぱりかもしれない。(僕も最初はさっぱりだった!)要は「その人にとって速すぎるペースで歩くことが疲労の原因のひとつであり、疲労物質(乳酸)がたまらない、適切なペースで歩きましょう」ということだ。その適切なペースの目安が「楽に会話ができること」である。

会話ができるペースを維持しよう

 運動には、その強度を個人の主観で表現する「自覚的運動強度(RPE)」という基準があり、かなり楽(RPE9)、かなりきつい(RPE17)、非常にきつい(RPE19)などと表現される。

 山本教授の「RPEが13以下のペースで歩くことを推奨」というのは、「ややきつい」と感じる以下のペースで歩こう、ということだ。その「ややきつい以下のペース」を言い換えると、「会話ができるペース」となるのだ。

 歩くペースを主観で決定すれば、体力の違いや登り下りの傾斜の違い、背負う装備の重量などに左右されず、常に個人にぴったりの、一定の基準をもって対応できるのである。急な登り坂を歩くとき、会話ができないほどに息を切らせて「きつい!」と感じるのであれば、それはペースが速すぎる。たいていの場合、通勤で駅の階段を上がるペースでは速すぎると考えたほうがいいだろう。

 息を切らさず楽に登っていると「こんなに遅いペースで大丈夫だろうか」と不安になるかもしれないが、大丈夫、歩いていれば必ず山頂に到着する。会話ができるペースを維持することが、バテずに歩き続ける秘訣であるのだ。

休憩の取り方

 山を疲れずに歩くためには、まず歩行のペースに注意を配り、そして休憩の取り方にもコツがある。そのコツとは、疲れる前に体を休めることだ。登山道の状況やメンバーの疲労度にもよるが、1時間ごとに5〜10分の休憩をはさむのが基本である。

1時間おきに5〜10分の休憩を

 大きな休憩を一度取るより、歩行中、景色がよい場所に立ち止まって小休止をはさむなど、こまめに休憩を取ることがバテないコツだ。下は日帰りハイキングのスケジュール例である。

  • 09:00 登山口出発
  • 09:30 小休止(靴ひもやウエアの確認)
  • 10:30 チェックポイントA 小休止
  • 11:30 チェックポイントB 小休止
  • 12:00 山頂到着 昼食休憩30分
  • 12:30 山頂出発
  • 13:30 チェックポイントC 小休止
  • 14:00 登山口下山

 まず、登山口を出発して早い段階で、短めの休憩をとろう。ここで靴紐の締め具合やウエアによる体温調整、当日の体調などを確認するといい。その後は1時間おきに小休止をとるのがコツだ。小休止中には水分補給やエネルギー補給を行い、喉が乾く前に飲み、お腹が空く前に一口食べることも大切である。

 なにせハイキングや一般登山はジョギングに相当する運動であり、それを数時間から長いときには数日も続けるスポーツである。消費エネルギーは相当であり、簡単なハイキングコースだからと休憩や補給をおこたると、痛い目に合うのは目に見えている。

休憩の取り過ぎには注意

 とはいうものの、休憩を取りすぎるのも考えものである。あまり頻繁に休憩をはさむとせっかく温まった体が冷えてしまい、冬季や悪天候時は冷えが疲労の原因にもなる。また、歩くリズムが崩れると余計に疲れることもあるのだ。

 一般的に、登山道を登るペースは1時間で標高差300m、下りは500m程度とされている。経験を重ねるごとに自分のペースが標準より速いか遅いかを把握し、予定より遅れている場合は休憩時間を短くするなど、時間のやりくりも考えたい。

 ひとまずは、1時間おきに5〜10分ほどの小休止をはさむ、この基本に忠実な山行計画を考えてみよう。そうすれば疲労で動けなくなるリスクを軽減でき、自然を楽しむ余裕ができることだろう。

 登山やハイキングは”歩く”というシンプルなスポーツだが、奥が深く、山には山の歩き方・休み方がある。その基本は以下の2点だ。

  • 会話ができるペースで歩く
  • 疲れる前に休憩をとる

 簡単なことのようだし、実際、誰にでも実践できることだ。しかし突き詰めていけばこれは技術と呼べるものであり、山歩きの基本中の基本であるといえるだろう。山を歩くときは、上の2点を意識してみよう。きっと今まで以上に山を楽しめるはずである。

参考文献

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