登山で使う地形図の読み方・使い方・学び方
今も昔も登山にナビゲーションテクニックは欠かせない。スマートフォンの普及により、以前と比べてルート確認が格段に容易になったにもかかわらず、未だに遭難原因の第一位が「道迷い」であることがそれを物語っている。*令和2年における山岳遭難の概況 – 警察庁
とはいうものの、「地図はリュックに入れっぱなし」で「コンパスは持っているけど使ったことはない」というのが現実かもしれない。その原因のひとつは、地図とコンパスを手にしても「どうすれば地図が読め、使えるようになるのかが分からない」ことではないだろうか。
この記事では、ナビゲーションを覚えたい人のために、僕が保有する「日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定」で学んだ、地形図の読み方と使い方、そしてその学び方をご紹介したい。地図は面白い。「よし、地図を使ってみよう!」と思い立ってくれたら幸いである。
目次
- ナビゲーションは習慣の問題です
- 机上で地図の基本を学ぼう
- 等高線の読み方|尾根と谷に線を引こう
- 地図とコンパスの基本の使い方|整置を覚えよう
- 地図を使ったナビゲーション方法と基本的な考え方
- JOA主催「ナヴィゲーションスキル検定」とは
- 参考書籍
ナビゲーションは習慣の問題です
- 地図を使える人=山行毎に地図を用意し、分からないなりにも実際にフィールドで使う人
- 地図を使えない人=地図を用意すらしない。仮に用意していても、フィールドで広げようともしない人
要するに、ナビゲーションは習慣の問題なのだ。
ナビゲーションは類い希な才能に恵まれたトップ1%の人間にしかできない技術ではない。地図が読めなくても山に行くたびに用意し、分からなくてもフィールドで地図を広げる。スマートフォンの山地図アプリで現在地を確認しながら、地形図と照らし合わせてみる。周囲の様子と照らし合わせる。
こうしたことを繰り返していると地図の距離感がつかめ、次第に等高線が立体的に見えるようになるから面白い。僕は練習——といってもこれも遊びのひとつだが——を始めてから1年後に、2次元の地形図が3次元に見えるようになった。その後に取得したのがナヴィゲーションスキル検定である。
しかし、ただやみくもに練習するよりもっと効率よく学ぶ方法がある。フィールドに出かける前に、ぜひ地図の基本を机上で学習しておこう。小学校の社会科で、地図記号や等高線を学んだ記憶はないだろうか(僕はすっかり忘れていた!)。はるか遠い彼方にある記憶の引き出しをこじあけて、知識をもう一度ひっぱり出してみよう。
机上で地図の基本を学ぼう
真北(しんぽく)と磁北

まずは真北と磁北の違いを理解しておこう。
地図の北と、コンパスが指す北は少し違う。地図の上は北極点のある真北を指すが、コンパスが指すのは磁北であり、真北とはズレがある。このズレを偏角(磁気偏差)という。
日本では偏角は西に傾き(これを偏西という)、北部では8〜10度、関東では7度前後、南部では5〜6度のズレがあり、地域によって偏角は異なる。地図には偏角が必ず記載されているから、確認しておこう。
確実なナビゲーションを行うにあたり、地図に磁北線が引かれていなければ正確な方位が分からない。そのため、あらかじめ地図に磁北線を引いておく必要があるのだ。
- 分度器を使って引く
- コンパスを使って引く
- 三角関数で値を求めて引く
磁北線の引き方は上の3つ。ただ最近は「地理院地図」や各種地図ソフトから地形図をプリントアウトする人が多いだろう。その場合は自動で磁北線を引いてくれるから便利だ。
ちなみに2万5000分の1の地形図に磁北線を引く場合、4cm間隔(地図上の1cm=実際の250m、4cm=1km)で引いておくと距離の目安になるので、フィールドでの利便性が高まる。
地図記号を覚えよう
地図を読むには地図記号を覚えなければならない。これには特別な方法はなく、頭に叩き込むしかない。さらにいうと地図記号の名前を覚えるだけではなく、記号を見て実際の風景をイメージできるようになることが大切だ。地図記号は書籍や国土地理院のWEBサイトで覚え、記号と実際の風景のイメージが合致するよう、繰り返しフィールドで確認したい。
地図の縮尺と実際の距離
縮尺とは、地図上の長さが実際の何分の1になっているかを表す比率のことである。登山では2万5000分の1や、5万分の1の地図が用いられ、オリエンテーリングやナビゲーションスポーツでは主として1万5000分の1が使われる。
例えば縮尺が2万5000分の1の場合、地図上の1cmは実際の250mに相当する。5万分の1の場合は、地図上の1cmは実際の500mだ。登山地図の代表である『山と高原地図』の大半は5万分の1であり、縮尺が小さく地形の詳細を読むには適さない。フィールドでのナビゲーションには、やはり2万5000分の1地形図が最適だ。
ときどき縮尺の大小に悩んでしまうが、下の式を見れば一目瞭然だ。つまり分母の数字が小さいほど縮尺が大きくなる。
- 1/15000>1/25000>1/50000
等高線の読み方|尾根と谷に線を引こう
ナビゲーションのハードルを上げているのが等高線ではないだろうか。意味は理解していても、あのぐねぐねと描かれた等高線をどうすれば読めるようになるのか。
それには尾根と谷に線を引いてみることだ。一発で読めるようになる。
等高線とは、標高(海抜高度)の等しい地点を連ねた線を地図上に表したもの。等高線を読むことで地形を立体的に捉えられるが、しかしこれがなかなか難しい。とくに尾根や谷が複雑に入り組んだ里山の地形などは把握しにくいだろう。まずは山の代表的な地形である尾根、谷、ピーク(頂上)が等高線でどのように表されているか確認しよう。
ピーク

ピークとは山の頂上のこと。地図上では等高線が丸く閉じて表される。
尾根

尾根とは、谷と谷の間の突起部分のことだ。地図ではピークから等高線が突き出している部分が尾根にあたる。
谷

谷とは、尾根と尾根の間にある凹んだ地形のこと。地図ではピークに向かって等高線が突き上げている部分が谷にあたる。
尾根と谷に線を引く

ピークや尾根、谷が等高線にどのように表れるか理解したところで、次は尾根と谷に線を引いてみよう。等高線の理解には、この作業がもっとも効果的で大切である。これをやれば、等高線の理解が一気に深まるのは間違いない。いつも出かけている山域の地図を用意して、面倒がらず、実際に作業してみることを全力でおすすめする。
地図とコンパスの基本の使い方|整置を覚えよう
地図の基本を確認したところで、いよいよコンパスを使った実践的なナビゲーションに入る。そこでまず、コンパスの使い方の基本である「整置」を覚えておこう。
- 地図の磁北線とコンパスの磁針を平行に合わせる
これだけで整置ができる。

整置はカーナビやスマートフォンの地図アプリをイメージしてもらうと分かりやすいだろう。カーナビの地図は、常に進行方向が上になるように、車の方向が変わるたびに地図がくるくる回転している。地図とコンパスを使ったナビゲーションでも、地図は常に進行方向が前になるように回転させて(整置して)使うのだ。
文章で説明すると難しく思われるかもしれないが、整置はとても簡単な作業である。今すぐ手元に地図とコンパスを用意して、やってみよう。もう一度書くが、「地図の磁北線とコンパスの磁針を平行に合わせる」。くれぐれも南北を間違えないように。
地図を使ったナビゲーション方法と基本的な考え方
ナビゲーションとは「読図能力や地形の判断力、コンパス操作などを総合的に用いて、迷わずに目的地に到達すること」である。
「みなさんは地図が読めない(読図ができない)レベルの人ではありません」
ナヴィゲーション検定2日目の実技講習を前に、村越先生はこのように述べられた。本講習への参加者は、読図を覚えたくて参加している人がほとんどだという。僕もそのひとりだった。しかし講習の参加者の多くは、すでに読図ができる人たちなのだそうだ。
僕たちに足りないものは、ただ地図を読むだけでなく、ナビゲーションに必要な情報を読み取る力——。そのナビゲーションを構成する4つのステップが以下のとおりである。
- プランニング:目的地や、そこまでのルートを決める
- 先読み:先のチェックポイントやルートの特徴を確認する
- ルート維持:正しいルートを進んでいるかを確認する
- 現在地把握:今どこにいるだろうか
目的地までのプランニング
まずは目的地までのルートの距離や高低差を読み取ろう。このときに、目的地に至る複数のルートを確認しておくと、エスケープルートの確認にもつながり、リスクマネジメントになる。山中では想定外のことが起こりうるのだ。
ルートを確認したら、ルート上の現在地を確認しやすそうな場所にチェックポイントを定める。慣れないうちは複数のチェックポイントを決めたほうが安心だが、上達すればチェックポイントの数を減らし、ナビゲーションをよりシンプルにする。
目的地までの先読み
目的地を定めたら、そこまでのルートにどのような特徴があるかを確認して先読みしておこう。道の方向や尾根、谷の状況はどうか。斜面はどのように変化するかなど。そのときに「もしルートを間違えたらどうなるか?」まで予測しておくとよい。例えば「正しいルートは尾根上にあるが、もし途中の分岐を間違えたら谷に下りてしまう」などということを予測しておく。そうすれば、万が一ルートを間違えたとしても、すぐ間違いに気づき、修正できるのだ。
ルートを維持する
目的地に向かって動き出したら、ルート維持に努めよう。先読みした特徴物や地形の状態、ルートのアップダウン、道の種類や方向が、正しいルートと一致しているだろうか。そしてチェックポイントでは現在地を確認しよう。
チェックポイントで現在地を把握する
現在地が把握できていないとナビゲーションはうまくいかない。自分がどこから来て、今どのあたりにいるのか。完全に現在地を見失ってしまうと、現在地の特定は非常に困難になる。最低限、「だいたいこの辺りにいる」程度でよいので、現在地はよく確認しておきたい。現在地を把握する4つのステップが以下のとおりだ。
- 周囲の様子を観察する
- 地図を確認する
- 動きながら確定する
- 周りの変化を常に意識する
現在地把握で大切なことは、地図より先に周囲の様子を確認することである。目標になるランドマークはないか、特徴的な地形はないか、斜面はどのように変化しているか、などを詳しく観察しよう。その次に、周囲の様子に該当する場所を地図上から探し出すのだ。
余談だが、村越先生によるとナビゲーションの上級者は地図上のすべての情報を確認しているわけではないという。必要な情報を的確に選別し、ナビゲーションに活用しているそうだ。常にピンポイントで現在地を把握している必要はなく、状況によっては「ポイントからポイントまでの線上にいる」ことが分かっていれば十分だそうだ。
JOA主催「ナヴィゲーションスキル検定」とは

この記事の最後に、僕が受講したナヴィゲーションスキル検定についてご紹介したい。
ナヴィゲーションスキル検定とは、公益社団法人日本オリエンテーリング協会(以下JOA)が道迷いを防ぐスキルをスタンダード化し、ナヴィゲーション・インストラクター認定制度の下、ナヴィゲーションスキルを確認する検定のことである。検定は山のグレーディングと関連づけられ、以下の3つのレベルが設定されている。
- ゴールドレベル:地図に道が書かれていないルートで、適切な判断ができるレベル。山のグレーディングDレベルに相当する。
- シルバーレベル:道をたどること自体が難しい場所で適切な判断ができるレベル。山のグレーディングCレベルに相当する。
- ブロンズレベル:登山道を道標がなくても不安なくたどれるレベル。山のグレーディングBレベルに相当する。
講師は村越真先生、田島利佳先生、小泉成行先生の3名で、いずれもオリエンテーリングやナビゲーションスポーツの第一人者として世界で活躍されている方々だ。僕が合格したのはシルバーレベル。もちろんゴールドレベルにも挑戦するつもりだ。
ナヴィゲーションスキル検定の実技講習では、ペアを組み、お互いに目的地までのルートを確認しながら進んだ。歩きながら地形の特徴などを話しあった。
このとき、地図や実際の地形、現在地や、これから進むルートを理解できていなければ、言葉で表すことができない。ルートや現在地について話しあうことは、自身の理解度を知るバロメーターになると同時に、自分以外の人がどのようにナビゲーションを考えているのかを知ることができるとても良い方法だ。
最後の実技試験では、チェックポイントで、現在地を、現在地たらしめる理由を文章で書き出した。これもナビゲーションに必要な要素を理解できていないと、文章にできない。
これからナビゲーションを学びたい人は、ぜひJOAが開催する講習・検定に参加することをおすすめする。地図の世界が広がることは間違いない。