登山地図の読み方・使い方|地図とコンパスの基本【整置】を覚えよう

 山の事故といえば、高山での滑落事故や厳しい雪山での遭難事故を想像するかもしれない。だが実は、もっとも怖いのは低山での道迷いである。

 警察庁がまとめた「令和2年における山岳遭難の概況」によると、令和2年度の山岳遭難者数2,697人のうち、1,186人が道迷い遭難に遭い、その割合は全体の44%を占める。GPS付きスマートフォンの普及により、現在地やルートの確認は以前と比べものにならないほど容易になったというのに、一体この数字はどうしたことだろう——。

 道迷い遭難を防ぐためには、スマートフォンの山地図アプリや地形図を現場で活用することが一番であるが、地図の使い方にハードルの高さを感じる人は多いことと思う。そこでこの記事では、日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定保有者が、『山と高原地図』を例に、登山地図の基本の使い方を解説したい。

登山地図とは

『山と高原地図|六甲・麻耶』の一部。ヤマプラで確認してみよう

 登山地図とは、地形図をベースに、より見やすく登山に必要な情報を網羅した地図のことで、昭文社の『山と高原地図』に代表される。各山域ごとに執筆者が実踏調査しており、コースタイムや危険箇所、宿泊施設などの情報をまとめているのが特徴だ。地形図に表記される等高線や地図記号が分からなくても、登山地図は直感的に見やすく、地図が全く読めない人でもこれなら扱いやすいだろう。山と高原地図では、主に次のことができる。

  • コースタイムの確認
  • 山中の設備や危険箇所の確認
  • コースの難易度・状況の確認
  • 地形の確認

コースタイムの確認

 山と高原地図で頻繁に確認するのがコースタイムである。目的地までの時間の目安が分かることで、出発時間や必要な装備などが決まってくるからだ。コースタイムは以下の条件のもと設定されている。

  • 40歳〜60歳の登山経験者
  • 2名〜5名のグループ
  • 山小屋利用の装備
  • 夏山の晴天時

 ただし、個人の能力や天候などによりコースタイムは変わる。あくまで参考程度にとどめておきたい。メンバーや天候、山行日程を考慮し、余裕を持った計画を立てよう。

山中の設備や危険箇所の確認

 宿泊施設やトイレ、水場などの情報の他、危険箇所や迷いやすいポイントも確認できる。あらかじめルート上の危険が分かっていれば、それに対する心構えも自然と違ってくるというものだ。

コースの難易度や状況を表す実線ルートと破線ルート

 登山を計画するときに、「このルートは自分に無理なく歩けるだろうか」という疑問はつきものだ。そんなときは、山と高原地図のルート線の種類を確認しよう。山と高原地図では登山道が赤線で記されているが、赤線の種類によりコースの難易度が分かるのだ。

  • 赤実践ルート=一般登山道
  • 赤破線ルート=経験者向きの難路

 初心者は実践ルートで経験を積み、慣れたら破線ルートに挑戦してみよう。ただし、破線ルートは難路であり踏み跡を見失いやすいこともある。破線ルートを歩くときは登山地図だけではいけない。国土地理院発行の地形図を携帯すべきだろう。

等高線から、標高差や地形もある程度まで読める

 山と高原地図には地形図と同様に等高線が書かれている。等高線とは、地図上で同じ高さの地点を連ねて描いた曲線のことだ。等高線を読むことで地形が分かる。例えば以下のとおりだ。

  • 等高線が密集しているところは傾斜が急 
  • 等高線が離れているところは傾斜が緩い 
  • 等高線が小さく閉じているところはピーク(頂上)である

 とはいうものの、山と高原地図の多くは縮尺5万分の1で刊行されている。等高線は20mおきであり、地図上の1cmは500mである。2万5000分の1地形図と比べると縮尺が小さく、詳細な地形を読むには適さない。ルートのアップダウンを大まかに掴める程度と考えよう。

参考までに、こちらが2万5000分の1地形図。等高線は読みやすいが、地図記号が並び無味乾燥で、初心者にはとっつきにくいかもしれない。気になる人は地理院地図で確認してみよう

登山地図は計画立案に最適

 山と高原地図は、登山者の目線で有益な情報が詳しくまとめられている。ルートも見やすく表記されており、親しみやすい地図である。この情報を活用すれば登山計画の立案に大いに役立つのだ。

 本来、計画に役立つ山と高原地図だが、低山の赤実践ルートを使った日帰りハイクなら、山と高原地図と小型のコンパスで十分対応できるだろう。登山地図を活用し、分岐ごとに現在地の確認と目的地の確認を行えば、道迷い遭難のリスクは相当減らせるはずだ。次項では、登山地図を現場で使うためのテクニック、「整置」について解説したい。

登山地図とコンパスの基本の使い方・整置を覚えよう

 地図を使ったナビゲーションに必要なのがコンパスである。登山で一般的なプレートコンパスを使った、現場での地図の使い方をご紹介しよう。まず覚えておきたいのが、真北と磁北の違いである。

真北と磁北

磁北 真北 偏角

 地図の上は北極点のある「真北」を示しているが、コンパスが指すのは真北ではく「磁北」である。地球の磁力の関係で、磁針は北極点からずれた磁北を指し、このずれを「偏角」という。日本では北極点に対して磁北が西にずれることから「西偏◯度」というように地図に記載されている。2018年以降の山と高原地図には、磁北を示す「磁北線」があらかじめ記載されているから、確認しておこう。

地図とコンパスの基本は整置(せいち)

写真では分かりにくいが、山と高原地図にも磁北線がある。コンパスの磁針と、磁北線を平行にすれば、整置できる

 登山地図や地形図を問わず、地図とコンパスの基本の使い方は「整置」である。整置とは、コンパスの北と地図の北を合わせる作業のことだ。

  • 地図の磁北線とコンパスの磁針を平行に合わせる

 たったこれだけで整置ができるのだ。整置することで自分が見ている風景と地図の方向が一致する。整置を覚えれば山中のほとんどの場面でナビゲーションができる。

サムコンパスと地形図を使った整置の例

 整置はカーナビやスマホの道案内をイメージしてもらうと分かりやすい。カーナビやマップアプリで経路案内を開始すると、画面の上は常に進行方向で、車や自分の向きが変わるたびに、地図が回転しているはずだ。登山地図も同じように、進行方向が常に上になるように、整置をしながら、地図を回転させて使うのが基本である。

 注意したいのが、整置に、プレートの向きや回転板の赤矢印の向きは一切関係がないということ。磁針の向きに集中することが大切である。そして南北を間違えないこと。これもよくやるミスのひとつだ。

 文章で書くと難しそうだが、要するにコンパスが指す磁北と地図の磁北線を合わせるだけなので、大丈夫、実際にやってみるとすぐに理解できるだろう。今、手元に地図とコンパスがある人は、さっそくやってみよう。

分岐や休憩ポイントのたびに整置すること

 整置を覚えたら最低限、分岐や頂上、休憩ポイントで地図を取り出し整置をし、現在地や進行方向を確認しよう。そのためには地図とコンパスを取り出しやすい場所に携帯することが大切である。

「登山の必需品だし、携帯するのがマナーだから」と用意はしていても、地図やコンパスをバックパックにしまいっぱなしでは、10年たっても20年たっても絶対に使えるようにはならない。そう、絶対にだ。地図とコンパスはシャツやパンツのポケットの中、サコッシュ、バックパックの外ポケットなど、すぐに取り出せる位置に携帯しておきたい。

 初心者にはハードルが高そうな地図読み・ナビゲーションだが、慣れると地図を使ったナビゲーションそのものが山の楽しみのひとつとなる。僕だってそれが面白いからスキル検定を取得したのだ。

 コロナ禍以前、僕は毎週のように、地形図を片手に関西の低山歩きを楽しんでいた。時には道のないバリエーションルートを歩くこともある。次第に地図から地形が手にとるように分かるようになり、等高線が立体的に見えてくるのが、とにかく快感だ。あまり難しく考えずに、地図とコンパスを手にとってみてほしいと思う。地図とコンパスは、面白いのだ。

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自然愛好家。大阪府山岳連盟・大阪青雲会に所属し、週末には関西近郊の里山にふらりと出かけていく。日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定・シルバーレベル取得。フルマラソンベスト3時間29分。