元靴職人が解説する、登山靴を最良に保つお手入れ方法
登山靴を良い状態に保つには、日頃の手入れが欠かせない。登山靴は手入れを怠ると劣化が進み、本来の性能を発揮できなくなるからだ。山中で靴ひもが切れたり、底が剥がれたりすると、命の危険にさらされることもあるだろう。
とはいえ、登山靴の手入れは難しそうで、履きっぱなしで放置している人も多いのではないだろうか。登山靴は、どのように手入れすればよいだろう。
実はとっても簡単で、自宅で簡単にお手入れができます。ここでは、靴メーカーで底付け・修理・仕上げなどを担当した管理人が、正しい登山靴の手入れ方法を解説したい。
目次
- 登山靴の手入れの基本は、湿気と汚れを取り除くこと
- 登山靴の手入れに必要なもの
- 登山靴の手入れの手順
- お手入れと同時に確認しておきたいポイント
- 登山靴の正しい保管方法|靴箱は処分しよう
登山靴の手入れの基本は、湿気と汚れを取り除くこと
登山靴に限らず、靴が劣化する要因は大きく分けて3つある。まず原因を確認しておくことで、正しい対策ができるのだ。
- 湿気
- 汚れ
- 靴底や靴の内外、靴ひもの摩耗
靴底や靴の内外が擦り切れる、これは靴を履く以上、避けられない。だが、汚れや湿気による劣化は手入れや保管に気をつけることで未然に防ぐことができる。特に注意したいのが、湿気による劣化だ。
靴を劣化させる大きな原因のひとつが、湿気による雑菌(カビ)の発生である。雑菌は靴に含まれる水分や汚れを栄養に繁殖する。革が使われている登山靴では、革そのものも雑菌のエサとなる。靴はいわば、雑菌の栄養の宝庫なのだ。
雑菌が繁殖することで嫌な臭いを発し、靴の素材が侵食されてしまう。湿気や汚れをため込むことで、広義の解釈で靴が錆びてしまうのである。
また、クッション材に使われるウレタン素材が、水分により分解を起こす(加水分解)。大切にしまっておいた冠婚葬祭用の靴を箱から久しぶりに出したら、底がボロボロになっていた——。これは加水分解が原因であり、諸悪の根源は、こびりついた汚れと靴にこもった湿気である。
以上のことから、靴の劣化を防ぐには、雑菌の繁殖の原因になる、汚れと湿気を取り除けばいいということだ。
革製の登山靴には栄養補給を
登山靴には、革製の登山靴や、化繊+革を使った登山靴がある。もし素材に革が使われている場合は栄養補給も欠かせない。
革は十分に潤い、しなやかさを保っている状態で最大限の仕事をする。栄養が足りなくなるとひび割れを起こし、強度が低下してしまうのだ。登山靴に使われる主な革はオイルレザーとヌバックだが、これらはいずれも牛革で、その仕上げ方法に違いがある。革の種類に応じた保革材(クリーム)を用意しよう。
登山靴の手入れに必要なもの

- 靴、あるいは登山靴専用クリーナー
- 保革材(ミンクオイルやクリームなど。革が使われている登山靴には必要)
- 撥水スプレー
- 靴ブラシ
- スポンジ
- 布きれ
- バケツ
靴専用のクリーナーがあればベスト。なければ中性洗剤でもかまわないが、革製登山靴には専用のクリーナーを用いること。そして種類に応じた保革材が必要だ。汚れを落とし、靴を乾燥させた後にクリームを塗布して栄養を補給しよう。保革材入りの撥水スプレーは革の栄養補給と撥水加工を同時にできて便利だ。
登山靴の手入れの手順
- インソールを外す(これが大切です!)
- ブラシでホコリや汚れを落とす
- 頑固な汚れはぬらした布で拭き取る
- 日陰で湿気を乾かす
- 撥水スプレーをふる

まず、靴の湿気を開放するために、帰宅したらインソールを外す。これが重要だ。湿気の悪影響はすでに解説したとおりである。インソールを外したついでに、面倒だが、手入れしやすいように靴ひもも外しておこう。

ブラシで泥や汚れを丁寧に落とし、頑固な汚れは湿らせた布でふきとる。その後は日陰でゆっくりと乾燥させよう。このとき、直射日光には当てないように。急激な乾燥は素材を劣化させるからだ。同じ理由で、靴の乾燥にドライヤーやストーブなどの熱源は使わないように気をつけよう。
よく乾燥させたら、仕上げに撥水スプレーをふっておく。そうすることで水を弾くばかりか汚れも付着しにくくなるからだ。またゴアテックスなどの防水透湿素材は、表面の撥水力があってこそ効果を発揮するものである。

撥水スプレーは靴から30cmほど離し、靴全体にまんべんなくふる。その後15分ほど乾燥させればOKだ。撥水スプレーは人体に害のあるスプレーであるため、かならず屋外の、換気のよい場所で使うこと。
登山靴を洗う
数日間の山行の後や、大雨で登山靴が浸水した場合などは、思い切って登山靴を洗ってしまおう。または山行の頻度にもよるが、2ヶ月に1回程度、丸洗いしておけば良い状態を保てるだろう。
- インソールや靴ひもをはずし、ブラシで汚れを落とす
- 専用クリーナーや中性洗剤で洗う
- 日陰でゆっくりと乾かす
- 革に保革材を塗布する
- 撥水スプレーをふる

バケツに水を用意し、ブラシやスポンジに専用クリーナーあるいは中性洗剤を含ませ、全体をまんべんなく洗う。革製登山靴は専用クリーナーを使うこと。靴の内部は水分を含ませた布で、軽く拭き取る程度で十分だ。日陰でゆっくりと乾かした後、革に保革材を塗布する。最後に撥水スプレーをかけて完了だ。

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この度、僕が開発に携わった——と言っても、文献調査と試作品のテスト、説明書の作成だけですけどね——靴用シャンプーが「DABLOCKS」より発売された。スニーカー用の洗剤として開発されたものだが、種々の素材に対応し、登山靴の洗浄でもテストした。
汚れ、落ちます。
開発段階で僕が実際にテストしたのだから、間違いない。つま先のラバー部分にこびりついた泥汚れなんかも綺麗サッパリに。ぜひぜひ、試してみてくださいね。
お手入れと同時に確認しておきたいポイント

登山靴の手入れと同時に、靴の傷み具合もチェックしておこう。
- 靴底のすり減り
- ウレタンの劣化
- 靴ひも
- 金属フック
言わずもがな、すり減った靴底はグリップ力が低下して危険である。登山靴の寿命は3〜5年といわれており、大きくすり減っている場合は修理や買い替えを検討したい。同時に靴ひもの擦り切れや、金属フックの緩みも確認しておこう。

登山靴でよくあるトラブルが、ウレタンソールの劣化である。ウレタンは、主に衝撃を吸収するためのミッドソールに用いられるが、湿気や経年変化で傷みやすく、加水分解を起こすと割れてしまう。ウレタンソールのチェック方法は、写真のように登山靴全体を曲げてみることだ。ソールに細かいひび割れが広がれば、それは加水分解の前兆である。山行中に底が割れたら大変危険だ。山行の前後に必ずソールの状態を確認しておきたい。
登山靴の正しい保管方法|靴箱は処分しよう
登山靴に限らず、靴は靴箱にはしまわず、風通しのよい場所に直射日光をさけて保管しよう。「冠婚葬祭用の靴を箱から久しぶりに出したら、底がボロボロに——」というのは、湿気が原因であると述べた。同様に、登山靴のソールも湿気により加水分解を起こしてしまう。湿気がこもる靴箱での保管はNGだ。
僕は登山靴を購入したときに、箱は店舗で処分してもらっている。靴に湿気は大敵。湿気を解放できるよう、風通しのよい場所に保管することが大切である。
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登山靴を長持ちさせるためには、日常の手入れが欠かせない。大切なことは、湿気を遠ざけ、汚れを落とすことである。それも、山行後できるだけ早く。
お手入れ方法は、解説したように簡単なものだ。もし山行後に登山靴を放置しているのなら、この記事を参考にメンテナンスしてみよう。履き心地もアップし、愛着もより一層増すことだろう。